『命取りのエピソード』感想|謎解きより印象に残った映画制作の裏側と、ホロヴィッツへの苛立ち

『命取りのエピソード』感想。映画カメラ、照明、原稿と虫眼鏡を描いた紺色とアイボリーのオリジナルイラスト 映画・本

アンソニー・ホロヴィッツの『命取りのエピソード』を読みました。私の評価は3.2/5です。

個人的には面白かったです。ただ、読み終わって強く残っているのは、謎解きそのものよりも映画制作の裏側だったかもしれません。

原作者、制作会社、エージェント。作品を作る人たちの話なのに、作品への思いだけでは物事が進まない。お金や権利、それぞれの立場が絡むと、誰の意見が通るのかも変わってくる。そのあたりが気になって、事件とは別のところでも読み進めたくなりました。

そして、もう一つ残ったのが「ホロヴィッツ、原作者なんだから、もっと意見を言ってくれ!」という気持ち。笑

このシリーズの語り手に対するじれったさが、今回は映画化の話と重なって、私の中でよりはっきりした感じがします。

※出版社の紹介にある導入設定には触れますが、犯人・トリック・結末、ホーソーンの過去の具体的内容は書きません。

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『命取りのエピソード』はどんな本?

著者はアンソニー・ホロヴィッツ、訳者は山田蘭。東京創元社の創元推理文庫から刊行された、〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズの作品です。

今回の舞台は、映画版『メインテーマは殺人』の撮影現場。ホーソーンを演じる俳優が殺され、ホーソーンがその謎に向き合います。小説の中で、第1作が映画になるという設定です。

基本情報と導入は、東京創元社の作品紹介で確認できます。

謎解きより印象に残った、映画制作の裏側

今回、私が特に面白かったのは、映画になるまでの人間関係でした。

普段、映画を観るときは完成したものを楽しんでいます。でも、そこにたどり着く前には、原作者がいて、制作を進める会社がいて、間に入るエージェントがいる。さらに資金や権利の話もある。みんなが同じ作品に関わっていても、同じことを大事にしているとは限らないんですよね。

私には、作品を生み出した人の思いと、実際に話を動かせる人の力が、必ずしも一致しないところが面白く感じられました。

「原作者の本なんだから、その人の考えを聞けばいいじゃん」と思いたくなる。でも、映画として形にするにはお金も人も必要で、原作者の思いだけで全部が決まるわけではない。かといって、だから原作者が軽く扱われていいのかと言われると、それも違う気がする。

読んでいる私まで、誰の立場でこの話を見るかによって、気持ちが行ったり来たりしました。

権利がどうなっているのか、誰が資金を出すのか、誰が交渉するのか。そういう話が入ってくると、「良い作品を作ろう」という言葉だけでは見えない力関係が気になってきます。作品の内容を考えることと、その作品を事業として動かすことには、また別の難しさがあるんだな、と。

もちろん、これを映画業界全体の実態だと受け取ったわけではありません。あくまで、この小説を読んでいて私が面白いと感じた部分です。

ミステリを読んでいるのに、読み終わって思い返すのが制作の裏側というのも、ちょっと面白い。笑 謎解きを一番楽しむ人とは印象が違うかもしれませんが、私はこういう部分にかなり引き込まれました。

原作者なんだから、もっと意見を言ってくれ!

その裏側が面白かったからこそ、余計に引っかかったのがホロヴィッツです。ここで言っているのは、語り手として登場する作中人物のホロヴィッツのことです。

これまでも、自己卑下や、言いたいことをうまく言えないところには、じれったさを感じていました。ただ、今回はそれが「自分の作品が映画になる」という話なので、私の中で苛立つ理由がよりはっきりした気がします。

自分が原作者なのに、なぜそこまで遠慮してしまうんだろう。制作会社やエージェントからの扱いも、私にはずいぶん雑に感じられました。

周りに対して「もう少し原作者を大事にしてくれよ」と思うし、本人にも「いや、そこで引かずに、もっと言っていいでしょ!」と思ってしまう。読んでいる私のほうが、勝手に腹を立てていました。笑

原作者だからといって、何でも自分の思いどおりにできるとは思いません。制作側にも事情はあるでしょうし、交渉には難しさもあると思います。それでも、自分の作品についてどう思っているのか、何を大切にしたいのかは、もっと主張してほしくなるんですよね。

単に気が弱い人物が苦手、というだけではないのかもしれません。作品を作った本人が、自分の作品をめぐる話の中で小さくなっているように見える。そのことが、私はどうにももどかしかったです。

自己卑下や二人の掛け合いも、このシリーズの味なのだとは思います。でも、毎回それを楽しく受け止められるわけでもない。今回は特に、映画制作の力関係に興味を引かれたぶん、ホロヴィッツの主張できなさも目についてしまいました。

巧妙なプロットと、やっぱり気になるホーソーンの過去

舞台裏の話ばかりしていますが、ミステリとしても面白く読みました。プロットは巧妙で、どう組み立てられているのかを楽しめる一冊です。具体的な仕掛けについては、これから読む人の楽しみとして伏せておきます。

そして、やっぱりホーソーンの過去が気になります。

事件の答えを知りたい気持ちとは別に、「結局、この人はどういう人なんだろう」という興味があるんですよね。目の前の謎が解けたら、それで二人への関心も終わる、という感じではありません。

ホロヴィッツにはあれこれ言いたくなりますが、それでもこの二人を追いたくなる。面白さと苛立ちが、私の中では普通に同居しています。

これから読むなら、第1作『メインテーマは殺人』から

シリーズが初めての人には、第1作『メインテーマは殺人』から読むことをおすすめします。

今回の映画化の題材になっている作品でもありますし、ホーソーンとホロヴィッツの関係を最初から追うほうが、私は楽しみやすいと思います。ホーソーンの過去が気になる、という気持ちも含めて、順番に読む楽しさのあるシリーズです。

今回の感想だけだと、私がホロヴィッツにずっと文句を言っているように見えるかもしれませんが、ちゃんと続きも気になっています。笑

評価は3.2/5。個人的には面白かった

私の評価は3.2/5です。

巧妙なプロットに加えて、映画制作の裏側を読む面白さがありました。原作者、制作会社、エージェント、お金や権利。その関係を見ている時間が、私にはかなり印象に残っています。

一方で、その中にいるホロヴィッツには、もっと自分の意見を言ってほしかった。周りからの扱いも含めて、「原作者なのに、それでいいの?」と感じる気持ちが、今作ではより明確になりました。

だからといって、面白くなかったわけではありません。むしろ、作品が作られる裏側に興味がある私には、気になるところが多い一冊でした。謎解き以上にそちらが残ったのは、好みの問題もあると思います。

次も、ホーソーンのことは知りたい。ホロヴィッツには、もう少し強く出てほしい。そんな読後感でした。

書籍が気になった方はこちら

『命取りのエピソード』(文庫・ISBN:9784488265182)

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